書道の落款(らっかん)~落成款識(らくせいかんし)の入れ方~

書道古典 美人董氏墓誌銘 臨書

掲載は、9月の課題の細字です。古典の美人董氏墓誌銘を臨書したものです。

 

落款(らっかん)とは、落成款識の略です。落成(らくせい)とは書の完成、款識(かんし)とは署名捺印のことです。

 

私は雅号をいただいてから、峻恵という名を書くことが、始めの頃は苦手だったのですが、師事していた先生に練習の時に、毎回書いた作品すべてに落款(名)を入れるようにとご指導いただきました。どの位経った頃か覚えていませんが、いつの間にか苦手意識が無くなり自然に名を書くことができるようになりました。

 

生徒様にも練習時、毎回、〇〇(お名前)書、や〇〇臨は、入れていただくようお伝えしています。

 

本文だけを練習して、仕上げの作品にだけ名前を入れるのではなく練習の時も毎回書くことで、自分の名や雅号が一番得意になっていきます。

 

私は、書展などで他の方の作品を拝見するときも、出展されている方の落款(特に書写名)に注目します。

その方の実力が落款に現れているので、素敵な作品をお書きになる方の書写名は、本文以上に特に落款(書写名)がとっても素敵です。

 

雅号を持つと、三顆(さんか)を押印できます。

朱文(文字が朱)の雅号ひとつ印でも良いです。(掲載がその例です。)

 

三顆(さんか)は、引首印(作品の右肩上部に押印し吉語が多いです。関防印ともいいます。上部は作品文字より上に飛び出してはいけないです。)と、雅号のすぐ下に押印する白文(文字が白)の本名と、その下に朱文の雅号、の順で押印します。

 

号でなく本名の方は、白文印でお名前一つ押印するか、まだ印をお持ちでない場合は、遊印(ゆういん)を、ひとつ押印すると良いです。絶対ではなく慣習です。

 

書道の鑑賞では、書の本文だけでなく、文房四宝だけでもなく、落款印(篆刻)のデザイン、押印の位置にも注目すると、とても楽しく勉強になります。篆刻の書体は、篆書や金文、仮名書道の場合は、草書や平仮名も素敵です。篆刻の方は、時々は自分でも彫って楽しんでいます。

 

稽古中、生徒さんから落款の書き方について質問を受けることがよくあります。

 

漢字作品の時、元号や干支も入れると落款が長くなり体裁よく入らなかった、どこに位置させたらよかったのか?と。

 

それは、本文だけに意識が行き、章法と布置(ふち)を始めに考えて計画していないから。本文が主役という意識だから。

 

紙を折る*前からご自分が落款をどのように入れたいのか、元号、干支、季節なども入れたいのか、名だけにするのか、何文字を入れたいのか、押印だけにしたいのかを最初から決めて、先に本文をどこに位置させるのかを計画してから書き始めることが必要です。

 

*紙を折ることについて*

かな書道では、線に影響が出るため紙は折りません(半紙右半分に2行に和歌を書くような場合は別ですが、)が、漢字の場合は、節筆といって紙の谷の部分に出た渇筆のような筆致も美となるため折って良いです。)

 

掲載の落款は、

元号、干支、月、古典名、古典の一節を峻恵が臨書した旨を入れています。お名前や号だけではなく、掲載作品のように、いつ、何を、だれが書いた(又は臨書したのか)のか等を入れると数年後に作品を振り返った時や、他の方が見たときに分かり易いです。

 

ちなみに、押印は書道用の印泥を使いますが、その色は、美麗(びれい)がとても品があって素敵で生徒様にもお勧めしています。その名の通り、美しく麗しい色で作品が映えます。(掲載分も美麗で押印しています。)